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大腸がんの基礎知識

大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍です。便潜血や便秘、血便などの症状があると大腸がんが疑われる。大腸に発生したポリープが原因となることが多い。手術による切除が第一選択で、早期発見できれば比較的高い確率で治癒が期待できる。

大腸の構造

大腸は成人であれば1.5m~2mほどの臓器で、部位によって結腸(盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸)、直腸(直腸S状部(RS)・上部直腸(Ra)・下部直腸(Rb))に分けられます(図1)。

図1:大腸の模式図

図1:大腸の模式図

大腸の壁は内側から順に粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層(しょうまくかそう)、漿膜という5つの層で構成されています。大腸は、摂取した食物が体外に排出されるまでの過程で、最後に通過する臓器となっています。

大腸は主に摂取した食物の水分を吸収する臓器で、大腸によって水分を吸収された食物は、徐々に固形になっていき便として体外に排出されます。大腸の機能が阻害されると、水分を吸収が不十分になり下痢などを引き起こします。

大腸がんとは

日本人は、S状結腸と直腸にがんが発生しやすく、年齢からみると50~70歳代に多いです。男女別の悪性腫瘍による死亡数では、男性では3位(結腸4位・直腸7位)、女性では2位(結腸3位・直腸9位)となっています(図2)。

図2:発生部位別がん死亡者数(2018年)

図2:発生部位別がん死亡者数(2018年)

大腸がんの発生のメカニズムには以下のような経路があると考えられています。

  1. 粘膜に発生した腺腫(良性の腫瘍、ポリープともいう)が、がん化して発症する。
  2. 粘膜にある細胞が直接がん細胞に変化する。
  3. 潰瘍性大腸炎からの発症。
  4. リンチ症候群(遺伝子疾患)からの発症。
  5. 大腸の鋸歯状病変(外的な原因により細胞が正常なまま過剰に増殖する)

大腸がんの多くは①の経路だといわれています。
大腸がんは大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍です。がんが粘膜下層までに留まっているものを早期がん、固有筋層よりも下に到達しているものを進行がんといいます(図3)。

大腸がんは進行して腸の壁を破ると、他の臓器に浸潤(がん細胞が染み出る)や転移(他の組織へ移る)することがあります。

転移の様式には、血流に乗ってがんが転移する「血行性転移」、お腹の中にがん細胞がばらまかれる「播種性転移」、リンパ節の流れにそって転移する「リンパ節転移」があります。血行性転移では、大腸の血流が肝臓の門脈を経由しているため肝臓への転移が最も多いです(図3)。

図3:大腸がんのステージと遠隔転移について

図3:大腸がんのステージと遠隔転移について

大腸がんの原因

大腸がんの発生には、食生活などの環境的要因や遺伝的・体質的要因、炎症性の腸疾患などが危険因子として関係していると考えられています。

環境的要因

近年、食生活の欧米化によって大腸がん患者は増加しています。欧米化によって食事内容が高脂質、高たんぱく、低食物繊維のものが多くなることが、がんの発生に関係しているといわれています。また。肥満や多量の飲酒、喫煙なども危険因子となります。

遺伝的要因

遺伝性の疾患として、家族性大腸腺腫症(100個以上のポリープができる病気)やリンチ症候群などがあり、これらの疾患は大腸がんの危険因子となっています。また、近親者にこれらの疾患がない場合でも、大腸がんになった人がいると散発的に発生する大腸がんのリスクは高くなるといわれています。

炎症性腸疾患

慢性的に大腸が炎症を起こしている人や、潰瘍性大腸炎に長期間罹患している人は大腸がんのリスクが高いです。

大腸がんの症状

早期がんの段階では自覚症状はほとんどありません。がんの進行に伴って症状が出てきます。また、がんの大きさや発生部位によっても違いがあります。
大腸の右側(盲腸、上行結腸、横行結腸)は食物の水分の吸収が十分に進んでおらず内容物は液状です。そのため、がんによる通過障害が起きづらく症状が出にくいです。症状としてはお腹の張りや慢性的な出血による貧血などがあります。
一方で大腸の左側は、水分吸収が進んでおり内容物が固形です。また肛門が近いため、がんが発生すると血便や便秘といった症状が出やすいです。右側に比べ比較的早い段階で症状が出るといわれています。
大腸がんの発生場所に限らず、腸が閉塞すると「腸閉塞」や「腸重積(腸の一部が後ろの腸が引き込まれる)」が発生します(図4)。

図4:大腸がんによる腸閉塞(大腸がんイレウス)の画像

図4:大腸がんによる腸閉塞(大腸がんイレウス)の画像

大腸がんの検査・診断

便潜血(便に血が混じる)や便秘や血便などの症状がみられると、大腸がんが疑われます。この場合、まずは大腸内視鏡検査によって盲腸から直腸までに異常がないかを調べます。
大腸内視鏡検査時に異常が見つかった場合、病変がある一部を採取して病理検査によってがんの診断を確定します(図5)。大腸がんの診断が確定すると、大腸がんの進行度や位置などを調べる検査を実施していきます。

図5:大腸がんの下部消化管内視鏡検査

図5:大腸がんの下部消化管内視鏡検査

1CT・MRI検査

大腸がんの周囲の臓器との位置関係や、リンパ節転移、播種性転移の有無などを調べます(図6)。

図6:大腸がんのCT、MRI検査

図6:大腸がんのCT、MRI検査

2注腸検査

肛門から造影剤と空気を注入しX線撮影を実施します。がんの位置や大きさ、腸の狭窄などを調べます(図7)。

図7:注腸検査

図7:注腸検査

3CTコロノグラフィ検査

肛門から二酸化炭素を注入してCT撮影を実施します。大腸内視鏡検査や注腸検査と似た画像を出力が可能で、注入検査の代わりに実施されることもあります。身体への負担が少ないのも特徴です(図8)。

図8:CTコロノグラフィ

図8:CTコロノグラフィ

4PET検査

がんが糖類を取り込むという性質を利用して、放射性のブドウ糖液を注入し撮影します。この結果得られた分布図とCT画像を重ね、全身のがん細胞を調べる検査です。他の検査で転移、再発の診断が確定できない場合に実施されます(図9)。

図9:PET検査

図9:PET検査

5腫瘍マーカー検査

「腫瘍マーカー」というがんが作り出す特殊な物質を調べます。CEAやCA19-9といった腫瘍マーカーを検査し、がんの発生の有無や場所、進行度を調べることが可能です。
これらの値が高い場合大腸がんを疑いますが、大腸がん以外の要素でも高くなる可能性もあり、腫瘍マーカーが高いからといって大腸がんと確定するわけではありません。

大腸がんの治療法

大腸がんの治療の原則は、がんが発生した病巣の切除です。肝臓などの大腸から離れた臓器に転移している場合でも、切除が可能な場合は実施します。がんの進行度や全身状態、合併症の有無、患者さんの希望などを考慮して治療方法を決定します。

大腸がんの治療には内視鏡治療、手術による外科的治療、放射線治療、薬物療法があります。

1内視鏡治療

大腸がんの内視鏡治療はリンパ節転移の可能性がほとんどないものが適応となります。内視鏡治療中にリンパ節転移が見つかった場合などは、追加の治療が実施される場合もあります。

・内視鏡治療的ポリープ切除術(ポリテクトミー)

ポリープが盛り上がり、茎が存在している病変に適応となります。輪状の輪をポリープの茎部分にかけ、病変を締め付けながら高周波電流で焼き切ります。近年、高周波を使用しないコールドポリテクトミーという方法も実施されています。

*内視鏡的粘膜切除(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)については「胃がんの治療法」を参照

2外科的治療

大腸がんの手術による外科的治療では、結腸なのか直腸なのかによって手術の方法が異なります。しかし、どちらの部位でも原発巣の切除と転移している可能性のあるリンパ節を取り除くことが基本方針となります。
近年は、腹腔鏡を使用した術式が積極的に実施されています。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて身体への負担が少なく、回復が早いというメリットがあります。

・結腸がんの手術(図10)

結腸をどの範囲を切除するかは、がんが発生している場所に応じて変化します。切除範囲によってがん周辺の大腸と、転移している可能性があるリンパ節を一緒に取り除きます。がんが切除できない場合は、食物や便が詰まらないように腸の迂回路を作るバイパス術を実施することがあります。

図10:結腸がんの術式、吻合について

図10:結腸がんの術式、吻合について

・直腸がんの手術(図11)

直腸は骨盤内の奥にあり、周辺には膀胱や前立腺、子宮などの臓器があります。隣接している臓器に浸潤している場合は、同時に切除することがあります。
また直腸の出口は肛門に繋がっており、手術の際は肛門括約筋を温存できるかどうかが大きな違いになります。肛門括約筋を温存できない、または高齢で肛門括約筋が著しく弱くなっている場合は人工肛門を造設します。

図11:直腸がんの術式

図11:直腸がんの術式

このほかにも全身状態の改善のため一時的に人工肛門を造設することもあります。

3放射線療法(図12)

手術後に直腸がんが骨盤内で再発するのを抑える目的の「補助放射線治療」と、がんの再発や転移による痛みや吐き気などの症状を和らげる目的の「緩和的放射線治療」があります。
補助的放射線治療は、人工肛門の造設を避けるために術前に実施されることもあります。

図12:放射線治療

図12:放射線治療

4薬物療法

大腸がんの薬物療法では、がん細胞の分列を邪魔して増殖を防ぐ「抗がん剤」、がんの遺伝子やタンパク質を効率的に攻撃する「分子標的治療薬」、がんが免疫から逃れるのを阻止する「免疫チェックポイント阻害薬」などが使用されます。
手術後に再発を防止する目的や、切除不能な進行性大腸がんに対して実施されます。進行性大腸がんに関しては、薬物療法によって手術による切除が可能になることもあります(図13)。

図13:化学療法治療例(大腸がん多発肝転移)

図13:化学療法治療例(大腸がん多発肝転移)

大腸がんの予防

大腸がんの予防には、バランスの良い食生活や多量の飲酒・喫煙といった生活習慣の改善が効果的と言われています。また、大腸がんは早期発見できれば比較的高い確率で治癒が期待できます。検診による定期的な検査で大腸がんの兆候を見逃さないようにし、早期発見・治療を行うよう心がけましょう。

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