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膵嚢胞性腫瘍について-羊の皮をかぶった狼?

膵嚢胞性腫瘍の中でも最も頻度の高いIPMN

「嚢胞(のうほう)」とは「液体のたまった袋」のことで、無症状のことが多く、それそのものは良性で様々な臓器で見られます。膵臓の場合は特に原因無くできることもありますが、急性膵炎や慢性膵炎などのような炎症に伴ってできることもあります。

一方、嚢胞状の病変を作る膵臓の腫瘍があります。これを「膵嚢胞性腫瘍」といいます。一見すると良性の嚢胞に見えますが、これらの腫瘍は良性から悪性まで様々です。

膵嚢胞性腫瘍の代表的な腫瘍には膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性膵嚢胞性腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)があります。

今回は膵嚢胞性腫瘍の中でも最も頻度の高いIPMNについてお話します。

IPMNは消化液の通り道である膵管にでき、ドロドロした粘液を作り出します。良性から悪性まで様々な段階がありますが、発見当初、良性であっても徐々に悪性化することがあります。悪性化し膵管の外まで病変が広がる(「浸潤」)と、通常型膵癌に匹敵する悪性度を持ちます。

そのため、悪性になっているかどうかを判断し治療方針を立てる必要があります。しかし、嚢胞性腫瘍は組織をとるために針を刺すと袋が破れて腫瘍細胞がおなかに広がってしまうので、組織診断がなかなかできません。そのため、多くの場合はCTやMRIなどの画像検査で悪性の判断をする必要があります。

まず、腫瘍が膵管の本通りである主膵管にできている場合は非常に悪性の頻度が高いため、手術をお勧めします。一方、膵管の脇道(「分枝」)にできている場合は、①嚢胞が3cmを超える場合、②嚢胞に造影される5mm未満の、しこり(結節)ができている場合、③嚢胞の壁が厚くなり造影される場合、などは、より精密検査をして手術を考慮することがあります。

前述のようにIPMNは浸潤癌となってしまうと悪性度が高いですが、浸潤する手前、もしくはごく浅い浸潤時に手術で治療できれば比較的経過は良好です。手術は病変の場所により亜全胃温存膵頭十二指腸切除もしくは膵体尾部切除が必要になります。

当科では浸潤癌ではない膵体尾部の病変に対しては侵襲の小さい腹腔鏡での手術を積極的に行っています。

IPMNをはじめとした膵嚢胞性腫瘍は一見すると無症状で良性の膵嚢胞にも似たかわいらしい「子羊」のようですが、実はその皮を被った「怖い狼」の可能性もあります。もし、検診などで膵臓に嚢胞性腫瘍を指摘されまだ、御精査が御済みでない方は是非、当科に御相談ください。

 

(文責:松井洋人(卒後18年目、外科専門医・消化器外科専門医・がん薬物療法専門医))