理念

教室理念

現今の医療崩壊危機の様相は、経済状況の逼迫や高齢社会への突入など社会環境の激変に加え、大学の法人化、新臨床研修制度の導入、勤務医不足、専門医志向、など医療を取り巻く状況の変化と密接に関与している。しかしながら、大学臨床講座における、診療・研究・教育の本質はかかる状況下にあっても、みじんの揺らぎをもきたしてはならない。

まず、大学・外科の課題は、「先端医療」である。つまり、「高い」手術技術が要求されることより、手術技量の確立が重要である。その上で、内科、放射線科さらには病理部門とも協調した臓器別・診療グループを構築し、統合された診療体系の中での分業化を行う。また、地域医療との統合の実現のためには、周辺施設との連携も重要である。さらに、先端医療推進においては、「Evidenceの確立」が必須の条件となるため、最終的な臨床試験まで念頭に置く必要がある。この点においては、大学・臨床講座はその基礎研究成果を科学的根拠とした「質の高い情報発信」を行いうる。そして、この「質の高い情報発信」にもとづく「良質な臨床試験」を展開し、「先端医療-Evidence確立」の完遂へと進めていく。

次に、臨床講座の研究目的は、外科治療成績の向上以外にはない。したがって、トランスレーショナル・リサーチがその本質である。ただし、現代医学は、高度に専門化され、臨床講座単独での研究には限界があり、基礎系医学講座やさらには理工学との共同研究は必須である。また、生体材料は臨床講座から積極的に提供し、共同研究の構築・発展に寄与すべきことは言うまでもない。網羅的探索(トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析)の臨床応用(DNA,RNA,蛋白,代謝産物の包括的解析、プロファイリングによる癌機能解析、感受性予測、再発・転移予測、腫瘍マーカーなどの外科腫瘍学への臨床応用、さらにいわゆるオーダーメイド治療への展開)と分子標的治療の開発(血管新生、免疫、チロシンキナーゼなど既存の治療標的分子機構や、転移、アポトーシス、幹細胞、代謝経路、分化誘導など今後の標的対象の分子機構と、それに対する低分子薬剤から遺伝子導入、細胞治療など治療モデルの考案と臨床応用)に重点を置き、最終的にこれらの研究成果を外科診療上の基軸の一つにすえ、集学的治療へと発展させていきたい。

また、教育に対しては、医師としてよりも社会人としての自覚を持たせ、医の倫理と社会との関わりの中で求められる医師像について教育する。さらには医療安全、診療科偏在、高齢者医療などの現状や厚生労働省の医療政策などにつながる的確な情報を提供し、理想の医師未来像を創造することの一助となる。その一方で、自然科学者としての視点の重要性と、常に疑問と対峙し解決するための真摯な姿勢について、教育したい。その上で、「考え方の基本」を身につけるべく指導したい。つまり、経験則にとらわれず、科学的な結果に基づいた理論的考察力を身につけてほしい。また、学位取得における「研究者としての視点」と、「外科医としての視点」をうまくコントロールできることが重要で、研究から臨床へ、臨床から研究へ、という点では、トランスレーショナルリサーチを構築する礎を築き上げてほしい。

最後に、臨床講座は、医師の生涯教育における、中心的役割を担う。現在の行政施策による、大学医局と医師の引き離しは、将来的には医療レベルの地盤沈下をもたらす危険性がある。つまり、生涯を通じた医師教育システムの欠落につながる可能性が高い。したがって、大学と地域における各病院とのネットワークを形成して、教育システムを構築をしていく必要がある。そして、このネットワークの構築は、専門医教育のみならず地域医療へと貢献する可能性も極めて高い。ただしそのためには、旧態依然とした封建的医局制度ではなく、医師教育のレベルアップという視点での実地教育の機会提供の姿勢が重要である。たとえば手術手技の習得には、十分な経験に基づく先達の直接指導は不可欠で、独学で優れた術者になる可能性は望めない。水準の高い関連施設との強調と連携により、質の高い臨床医教育を実施することが何よりも肝要と考える。

総括として、大学・臨床講座の責務は、先端医療を永続的に提供し、その発展と患者利益を念頭に置いた医学研究の推進により、将来の医師育成をはかる。そしてその最先端医学、教育そして診療を、確固たる理念のもとに遂行し、さらには世界に向けて発信し、人類の未来へと奉仕する。