各がんの基礎知識胃がん

  1. トップページ
  2. 患者さんへ
  3. 各がんの基礎知識
  4. 胃がん

胃がんの基礎知識

胃がんとは胃の壁の一番内側にある粘膜に発生するがんである。ヘリコバクター・ピロリ菌や喫煙習慣が原因と考えられており、病気が進行すると悪心、嘔吐、吐血といった症状が現れる。内視鏡治療や外科的治療、抗がん剤治療が主な治療法である。

胃の構造

胃は食道と十二指腸の間に位置している袋のような臓器で、主に食物の貯留や殺菌などの役割を担っています。
食道に繋がる入口部分を「噴門(ふんもん)」噴門と連続する胃の上部を「胃底部(胃底部)」、十二指腸へ繋がる出口部分を「幽門部(ゆうもんぶ)」と呼びます。胃底部と幽門部の間は「胃体部(いたいぶ)」と呼ばれています。(図1)

図1

胃の構造

また、胃の壁は大きく分けて4層構造になっているのが特徴です。内側から「粘膜(ねんまく)」「粘膜下層(ねんまくかそう)」「筋層(きんまく)」「漿膜(しょうまく)」という順番で重なり作られています。(図2)

図2

胃の構造

胃がんとは?

胃がんとは胃の壁の一番内側にある粘膜に発生するがんです。粘膜に発生したがん細胞は、徐々に増えていき、外側の筋層や漿膜へと広がっていきます。
このように、がん細胞が組織に浸みこみ広がっていくことを、浸潤(しんじゅん)といいます。筋層まで達したがん細胞はやがて周辺の臓器や、リンパ節へと浸潤していきます。
胃がんは、がん細胞の浸潤がどの程度進んでいるかによって2種類に分けられます。粘膜下層までに留まっているものを「早期胃がん」(図3)、筋層よりも外側に達しているものを「進行胃がん」(図4)と呼びます。

図3 : 小彎側の早期胃がん

早期胃がん

図4 : 胃角にできた進行胃がん

進行胃がん

また、このほかにも「スキルス胃がん」(図5)という胃がんもあります。スキルス胃がんは胃の内部の壁に広範囲に及ぶ胃がんです。そのため、早期の発見が難しく発見された段階で、すでに他の臓器への転移が認められる場合もあります。

図5 : 胃体部に広がるスキルス胃がん

進行胃がん

どの胃がんの場合も、がん細胞の浸潤が進むとがん細胞は胃の外側へと散らばっていきます。リンパ節や血液の流れによって、離れた臓器にがん細胞が行き渡ると、がんの転移が起こります。離れた臓器にがん細胞が行き渡ることを「遠隔転移(えんかくてんい)」といいます。

また、がん細胞がおなかの臓器を覆っている「腹膜」に散らばることを「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と呼びます。腹膜播種や遠隔転移が起こると、手術だけによるがんの摘出が困難になります。(図6)

図6

胃がんの転移

近年、診断や治療方法の発展によって胃がんによる死亡者数は減少しています。しかし、減少したとはいっても、胃がんの死亡者数は「肺がん」「大腸がん」に続いて3番目に多くなっています。先進国の中でも日本人は胃がん患者が多く、私たちには依然として身近ながんといえます。

胃がんの原因

胃がんが発生には以下の原因が考えられています。

ヘリコバクター・ピロリ菌

ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)は胃の粘膜に定着する菌です。主に幼いころに摂取した食べ物や飲み物などから感染します。他にも、ピロリ菌をもっている親から子への口移しなどによっても感染するといわれています。
ピロリ菌に感染した胃は、胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)と呼ばれる状態を引き起こします。萎縮性胃炎が進行すると、胃の粘膜は灰白色になり、その部分が胃がんの発生母地(がんが最初に発生する場所)となります。
しかし、ピロリ菌の感染が、必ず胃がんを発症の原因となるわけではありません。また、ピロリ菌は胃がん以外にも胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生要因になるともいわれています。

喫煙

喫煙は、肺がんなどに比べると発生の関係性は低いです。しかし、喫煙本数によって胃がんの発生率が変化するという報告もあり、無関係ではありません。
喫煙によって発生した有害物質は肺だけでなく、唾液などに混ざって胃の中に入ります。この有害物質によって胃の粘膜の炎症が起こり、萎縮性胃炎や胃がんの原因となります。

その他

これらの原因の他にも、塩分の過剰摂取や過度な飲酒などの胃の粘膜へダメージを与える食習慣は胃がんの発生確率を上昇させるといわれています。

胃がんの症状

胃がんの症状は、早期胃がんの場合は無症状のことが多いですが、病気の進行によって様々な症状が現れてきます。胃がんの進行状況によって現れる症状は以下の通りです。

進行胃がん

  • 体重減少
  • 食欲不振
  • 腹部の不快感
  • 心窩部痛

これらの症状が見られますが、進行胃がんの場合でも無症状の人もいます。

この他にも「消化管出血」を合併していると、吐血や黒色便、易疲労感(疲れやすい)などの症状が現れます。

胃がんの検査・診断・病期(ステージ)

胃がんは早期の場合無症状のことが多く、検診やほかの病気の検査で見つかることが多いです。検査結果で胃がんが疑われると胃がんの確定診断や進行度を調べます。

検診

1胃がんリスク検診(ABC検診)

ABC検診は血液検査によってピロリ菌の有無などを調べ、胃がんの危険性をA~Dの4段階に分類する検査です。
どれだけ発症の可能性があるかを調べる検査ですので、胃がんそのものを発見できるわけではありません。
この検査によって胃がんのハイリスクグループと診断されると、内視鏡検査などの胃がん検査が推奨されます。

2胃がん検診(図7)

バリウムという造影剤を飲みレントゲン撮影をする「上部消化管検査」、鼻や口から小型のカメラを入れ胃や食道、十二指腸の状態を観察する「内視鏡検査」が実施されます。造影剤や内視鏡検査時に使用する麻酔にアレルギーのある人は注意が必要です。

図7

胃がん検診

3内視鏡検査(図8)

検診によって胃がんが疑われると、内視鏡を使用した様々な画像検査が実施されます。また、内視鏡検査の際に、がんが疑われる場所の組織の一部をつまんで採取し病理検査をおこないます。これらの検査結果から胃がんの有無を診断します。(確定診断)

図8

内視鏡検査

進行度検査

発見された胃がんがどの深さまで浸潤しているかを調べるため、これまで実施した検査に加え、以下の検査をおこないます。

1超音波内視鏡検査(EUS)

超音波によって、胃の壁のどの層までがん細胞が浸潤しているかを推定することができます。

2CT検査(図9)

X線や磁気を使用し、胃を断面図で撮影して内部を撮影する検査です。胃がんの周囲臓器への浸潤の有無、胃周囲のリンパ節腫大の有無、他の臓器への転移の有無などが調べられます。

図9

CT検査

これらの検査の他にも、「PET-CT検査」などを実施してがんの転移の有無を調べることもあります。
また、「腹膜播種」が疑われる場合は、全身麻酔を使用して腹腔鏡による腹水や組織の一部採取がおこなわれる場合もあります。

病期(ステージ)

胃がんの病期は以下の3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。

Tカテゴリー: がんの深さの程度(深達度、図10)
Nカテゴリー: リンパ節転移の程度
(N0:転移なし、N1:1-2個転移、N2:3-6個転移、N3:7個以上)
Mカテゴリー: 胃から離れた臓器への転移(遠隔転移)の有無
(M0:転移なし、M1:転移あり)

図10

病期(ステージ)

病期分類はI-IVまであり、患者さんの予後を予測し、治療方針を決定するために重要です。
上記の検査からがんの進行を推定し、治療方針の決定のために使うものが臨床分類、手術で切除した胃やリンパ節を病理診断して、実際のがんの進行を評価したものが病理分類です。(図11)

図11

進行度分類

胃がん取り扱い規約第15版 金原出版より引用

胃がんの治療

胃がんの治療方法は、がんの進行度や転移の有無、患者の全身状態などを考慮して決定されます。

内視鏡的治療(EMR/ESD)

原則的に粘膜までの病変でリンパ節転移の可能性が低く、一括での切除が可能な大きさの胃がんに適応となります。
内視鏡的治療には、胃がんの病変部分の下に液体を入れ、膨れ上がった部分にワイヤーをかけて切除する「EMR:内視鏡的粘膜切除術」や、電気ナイフで病変部分を徐々に切り剥がす「ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術」といった治療があります。

外科的治療

化学療法

がんの遠隔転移や腹膜播種などによって、手術に摘出が困難な進行がん、胃がん治療後の再発などの場合、薬剤による化学療法が選択されます。
薬剤のみでの胃がんの完治は困難ですが、がんの進行を遅らせることで症状の緩和やその後の生存期間延長に効果が期待できます。
また、病理分類で進行胃がんであることが判明した場合、手術によるがんの摘出がおこなわれた後に、術後の再発を予防する観点から化学療法が実施されることもあります。

胃がんの予防

胃がんの予防には、原因となるピロリ菌の除去や生活習慣の改善が効果的といわれています。特にピロリ菌感染は胃がんのリスクを高めるので、早期の除菌が推奨されます。
また、塩分の取り過ぎや喫煙に関しても胃がんの危険因子となっていますので、そういった生活習慣のある人は改善することで、胃がんの発生予防に繋がります。
胃がんは発見が早いほど、その後の治療の効果も上がるため早期の発見が望ましいです。そのため、定期的な胃がん検診を心がけることが望ましいです。

当科の治療内容や手術成績はこちら