診療紹介|上部消化管(食道・胃)

食道ー上部消化管

高侵襲の食道癌や食道良性疾患に対して鏡視下手術を導入し、低侵襲で根治性の高い治療を目指しています。手術、周術期管理、化学療法などにおいて様々な工夫を行い、食道疾患を治療しています。

1.食道について

「食道」という臓器は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらい、太さ2~3cm、厚さ4mmの管状の臓器です。大部分は胸の中心にある縦隔という部を走りますが、一部は首(約5cm、咽頭の真下)、一部は腹部(約2cm、横隔膜の真下)にあります。

食道は身体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。
この解剖学的特徴から食道は心臓、大動脈や気管、肺などの生命に直接かかわる重要な臓器に囲まれていることになります。
外科的治療の対象となる食道の病気は、良性疾患であればアカラシア、逆流性食道炎、食道粘膜下腫瘍などで、悪性疾患では食道癌が挙げられます。

良性疾患(アカラシア、逆流性食道炎、食道粘膜下腫瘍など)では、まずは内科的に治療しますが、内科的治療が困難な場合には外科手術となります。以前はお腹を真ん中で大きく切って(正中切開)手術をしていましたが、当科では腹腔鏡手術を第一選択にしており長さ約1cmの創が数箇所腹部に残るだけでの手術が可能となりました。

当科で治療する食道疾患で一番多いのは、食道悪性腫瘍(食道癌)です。
食道癌の治療は(1)手術(内視鏡的粘膜下層剥離術を含む)(2)化学療法(抗がん剤)(3)放射線療法があります。
当科では腫瘍の状態、患者さんの全身状態、患者さんの希望などを総合的に判断して、最適な治療方法を薦めています。

■食道癌の治療方針

食道は重要な臓器に囲まれているため、食道の手術には専門的な解剖学的知識が必要となってきます。当科では食道癌の手術、治療にあたっては食道癌治療経験が豊富な食道外科専門医あるいは消化器外科専門医が担当・指導します。

2.食道癌の手術

1胸腔鏡下食道切除術

従来、食道癌の手術は、右第4肋間を20cm程度開胸して行っていましたが、胸腔鏡手術は1cmの創を4箇所切開して行う低侵襲手術で、美容性に優れ、術後の疼痛が少ない手術です。
当科では食道癌に対する胸腔手術を2008年から導入し、癌の進行度に応じて安全性を確認しながら段階的に適応を拡大し、2014年は症例の8割を胸腔鏡下で行いました。

■胸腔鏡下食道切除術
■胸部の手術創
2腹腔鏡補助下の腹部操作
■腹部の手術創

食道癌の手術では胸部だけでなく腹部や頸部の操作が必要ですが、腹部操作も以前から腹腔鏡補助下に小さな傷で手術を行っています。

従来は上腹部の大きな創で行っていましたが、腹腔鏡を併用して、約6cmの小さな創で腹部操作を行うため、術後の腹部創の痛みは軽くなっています。

3縦隔鏡下食道切除術

胸腔内操作で開胸を行わず縦隔鏡というカメラスコープを頸部と腹部の創から挿入し、周囲組織から食道を剥離し、リンパ節を郭清する方法です。開胸が困難な患者さんや比較的早期の患者さんに用い、開胸を伴わないためより低侵襲な手術ですが、ある程度適応が限られます。

4年度別食道手術症例数

下のグラフは、これまでの食道手術の年次推移を示しています。
良性疾患も含めて鏡視下手術割合が多数を占めるようになってきました。

3.周術期管理

1栄養管理

食道癌の患者さんは通過障害のため十分な食事が取れずに、術前に栄養状態が不良となっていることが多く、術後の様々な合併症の原因となることが知られています。当科では術前に免疫増強作用のある栄養剤を飲んでいただくことでこの栄養状態を改善して免疫能を高めて手術に望むようにし、感染症を代表とする合併症の発症を低くしようと努力しています。

また、食道癌の手術では消化管吻合があるため、絶食期間がどうしても必要です。術後は腸を用いたほうが点滴のみによる栄養管理より優れていることが知られているので、当科では食道癌術後には手術時に経腸栄養チューブという細いチューブを腹部から小腸に留置し、術後は早期から(手術当日の夜から)栄養剤を経腸投与しています。

術後は1週間程度で食事を開始しますが、食べやすい食事などを工夫し、摂取量など適宜相談しながら食事指導を行います。

2感染症予防

過去には全世界的に抗生剤を不適切に使用し(本当は必要なかったのに強力な抗生剤を使用など)、MRSAなどの耐性菌が出現し、問題となった時代がありました。現在では予防的な抗生剤の投与は必要最小限にとどめ、抗生剤を適正に使用することにより食道癌術後には特殊な耐性菌の出現は激減しています。

3周術期リハビリテーション

上記のように当科では主に胸腔鏡・腹腔鏡視下での食道癌手術を行っていますが、低侵襲な鏡視下手術においても術後肺炎などの合併症を認めることがあります。
このような術後呼吸器合併症や廃用症候群の予防、入院期間の短縮、早期社会復帰を目的に、手術前から周術期、退院に至るまで一貫した呼吸器・運動器リハビリテーションを行っています。

また、食道癌の術後には反回神経麻痺などが原因で嚥下障害が生じることもあるので、嚥下リハビリテーションも術前から行っています。

■当科での標準的な周術期経過

4.手術成績

最近10年間の食道癌の治療成績を示します。他病死など食道癌以外の原因でお亡くなりになった患者さんは含まれていません。

■食道癌ステージ別生存率

5.化学療法

標準的にはCDDP(シスプラチン)と5-FUという抗がん剤を用いていますが、最近は一部の病期の食道癌では術前化学療法の有用性が報告されているため、当科でも手術の前に化学療法を行う症例が増えています。この他にもドセタキセルとネダプラチンの外来投与を行なっています。食事摂取が可能であれば通院で抗がん剤治療を行なうことが可能です。

6.化学放射線療法

化学療法(抗癌剤治療)と放射線治療を併用したものを化学放射線療法と呼び、相加相乗効果を期待でき、化学療法や放射線治療単独で行うよりも併用することで相乗効果により、治療効果が高まります。
癌が高度に進行している場合や、合併症などで耐術能がないため手術ができない場合に行う治療のひとつです。また手術適応であっても手術を希望されない場合にも選択されることもあります。

胃ー上部消化管

当科では以前より数多くの胃癌の手術を行っており、最近では1年間に約70~80例の手術を行っています。胃癌は非常に早期に発見され内視鏡で治療される患者さんも多くいらっしゃいますが、まだまだ多くの患者さんが手術を必要とされています。当科では常に患者さんが安心して手術を受けられるよう努力を続けています。

1.胃癌に対する胃切除術

胃癌に対する手術方法はある程度「胃癌治療ガイドライン」に定められており、当科でも基本的には「ガイドライン」に沿って手術方法を決定しています。当科における胃癌の治療方針の概略と幽門側胃切除術後経過の概略(クリニカルパス)を下に示します。

胃と腸をつなぐ吻合では器械を用いて行い、安全性と手術時間の短縮に努めています。しかもこれは当科で開発した独自の方法で、これまでに500例以上の実績があります。

■当科における胃癌治療方針(概略)
■幽門側胃切除術後経過の概略(クリニカルパス)

2.胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術

早期胃癌に対しては基本的に腹腔鏡手術を行っており、進行胃癌に対しても明らかに漿膜浸や高度のリンパ節転移がない場合には腹腔鏡手術を行っています。現在まで約400例の実績があります。5箇所の0.5~1cmの傷にプラス上腹部4~6cmの切開で行っています。
また平成25年よりロボット手術も開始しました。

その他の胃疾患に対する手術

胃癌以外の腫瘍や良性疾患が対象となります。主なものとしてGIST(ジスト)と呼ばれる胃の腫瘍性疾患があります。年間数例ですが原則として腹腔鏡下の手術で対応するようにしています。

■腹腔鏡下胃切除術の手術風景
■腹腔鏡下胃切除術後の手術創
■平成25年8月よりロボット支援幽門側胃切除術を開始

3.年度別手術数

下のグラフはこれまでの胃切除術の年次推移を示しています。青色が胃癌の全症例数を、オレンジ色が胃癌の腹腔鏡の症例数を表しています。グレーの胃十二指腸手術症例数には、GIST(主に腹腔鏡手術)が含まれています。積極的に腹腔鏡手術を導入した平成15年より他院からの紹介も増え、手術件数が増加しています。

■年度別上部消化管手術症例数

4.胃癌に対する化学療法

抗癌剤治療のことを化学療法と言います。胃癌に対する化学療法もある程度「胃癌治療ガイドライン」に定められており、当科でも基本的には「ガイドライン」に沿って化学療法を決定しています。当科では外来で安全に化学療法ができるシステムを築き上げており、常に患者さんの QOL を重視した治療を心がけています。また積極的に臨床試験を行っており、最良の治療法を開発するための努力も惜しみません。

■切除不能・再発胃癌に対する化学療法のアルゴリズム

化学療法に関しては、山口大学医学部附属病院 腫瘍センターのホームページもご覧ください。
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~shuyou/index.html

5.胃癌における実績

■胃癌ステージ別生存率