研究内容|分子生物学

分子生物学

2003年4月にヒトゲノムが完全解読され、ポストゲノム研究として「トランスクリプトミクス」「プロテオミクス」が注目されています。トランスクリプトミクス及びプロテオミクスとは、遺伝子から産生されるmRNA及びタンパク質群を網羅的に分離同定し、それらの機能を明らかにすることで生命システムを解明しようとするものです。特に医学の分野では、疾患の発症や治療によって特異的に変動するタンパク質群を同定することで、発症機序の解明、予後の判定、新薬の創生が可能になると考えられています。また、近年では次世代シーケンサーの登場により、ゲノムそのものを網羅的に解析する「ゲノミクス」もあらためて注目されています。

がん病態

教室では消化器がんの予後診断への応用研究を推進しており、その先鋒としてトランスクリプトミクスから肝細胞がんの早期再発予測システムを開発しました。このシステムは93%の高精度な正診率を有しています(下図)。また、プロテオミクスからは、肝細胞がんの治療標的としてHSP70を同定し、免疫治療への臨床応用において一定の治療成績を上げています。さらに、トランスクリプトミクスやプロテオミクスから得られた多くの分子について、予後との関連性の確認や、遺伝子ノックダウンや遺伝子導入を用いて機能解析を行い、新たな治療標的分子の探索を行っています。また、低侵襲に測定出来る診断マーカーとして、血中に遊離したがん細胞由来のDNAやマイクロRNAの探索も行っています。

がん幹細胞(Cancer stem cell)

がん幹細胞は、自己複製能・腫瘍形成能だけでなく、転移や治療抵抗性にも大きく関与しているため近年注目されています。がんの根治のためには、がん細胞そのものだけでなくがん幹細胞も標的とした治療法が求められており、がん幹細胞マーカーの探索や機能解析が盛んに行われています。当科では、消化器がん (膵がん、肝細胞がん、食道がん) からがん幹細胞を選択的に分離増殖させる手法の開発に成功致しました。この手法を用いて、がん幹細胞の生物学的特性を探索し、がん幹細胞に有効な治療標的分子を見いだし新たな治療法の開発を進めています(下図)。

ゲノム情報に立脚した個別化がん治療

私たちは皆が全て同じゲノム情報を持つのではなく、少しずつ異なっていて多様性を持っています。この多様性には遺伝子多型や変異が含まれます。ゲノム情報の特定座位の違いにより、酵素の産生量やその活性に個人差が生じます。そのため、お酒に強い弱いと同様に、抗がん剤の効果や副作用や、手術侵襲に対する生体反応、がんになり易さには、ゲノム情報の個人差が影響しているといわれています。教室では、抗がん剤の副作用は患者さんの治療に直結するため極めて重要と考え、抗がん剤の副作用が出やすい遺伝子多型を研究し、副作用の少ない個別化治療の開発に力を入れております。特に、次世代シーケンサー (NGS) を用いての網羅的探索に取り組んでいます。ヒトゲノム配列 (主にExon領域) だけでなく、DNAからの転写産物であるRNA (mRNA, microRNA, and ncRNA) や、Copy Number Variation (CNV) 等の構造異常、後天的修飾であるゲノムDNAのメチル化状態も対象としています。このような網羅的探索から、個別化医療に有用な診断マーカーや治療標的の同定を行っています。
その成果を用いて、カスタムDNAチップによる遺伝子多型の体外診断薬開発を企業と共同で取り組んでいます(下図)。現在、東洋鋼鈑株式会社様との共同開発品の一つである「UGT1A遺伝子多型測定DNAチップ」が薬事申請中です。

また、山口大学医学部内に遺伝子多型研究会を設置し、多くの教室と連携してNGSを用いてのゲノム解析を横断的に進めています。